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潤滑工学とは

潤滑工学(トライボロジー)とは?

トライボロジー(潤滑工学)とは1966年にイギリスで初めて使われた言葉で、定義は「相対運動しながら互いに干渉し合う2面に関連した諸問題と実地応用に関する科学と技術」です。歴史ある機械工学分野では比較的新しい分野です。そのため機械の専門家でも、トライボロジーという言葉を知らない方が多いのが実情です。

トライボロジーは、常識では理解しがたい現象も起こるなど、極めて泥臭い分野でです。設計・メンテナンス・運転を総合的に見ないと理解し辛く、有能な機械設計者でもトライボロジーは盲点になりがちです。

日本における潤滑管理に関する年間損失額は、何と十数兆円と推定されています。

動機械では、軸受損傷・焼付、振動、漏れ等の様々な問題が発生しますが、そのメカニズムを調べると、大半にトライボロジーが密接に関係しています。

潤滑のポイント1:油膜確保

軸受やギヤ等の潤滑で重要なのは油膜の確保です。油膜が切れると潤滑不良となり、軸受・ギヤ等の摩耗が発生。摩耗分が新たな摩耗を生む悪循環(専門用語でアブレシブ摩耗)が発生し、摩耗が加速され、焼付き等のトラブル停止に至ります。一方、油膜が厚すぎても動力損失となりますので、適正油膜を確保・維持することが重要です。

「油膜の厚さは、(相対速度)×(油粘度)/(荷重)に比例」します。

油膜の厚さは、(相対速度)×(油粘度)/(荷重)に比例

例えば高速回転のタービンでは、相対速度が大きいので油膜はできやすく低粘度の油が使われます。一方、回転数が低く、荷重の大きなギヤ等では、高粘度油を使用することで油膜を確保しようとします。荷重と相対速度は変えることができないことが多く、運転管理では残る粘度管理が特に重要となります。

潤滑のポイント2:温度管理(1)

前回「油膜確保に粘度管理が重要」と申しましたが、ここでいう粘度は「潤滑面における粘度」です。同じ油種でも粘度は温度で大きく変わりますので、摺動面の温度管理が重要であり、大型タービン等では連続計測し、温度上昇で停止させる仕組みが設けられていることもあります。

設備管理をしっかりされている現場では、軸受等の温度を連続、または定期的に計測・記録管理し、トラブルを未然に防ぐ努力をされています。

例えば、某タイヤメーカー様の油圧ユニットでは、夏場に油温が上昇するため、大型ファンを仮設し冷却されていましたが、対策の翌夏は「ファンを使わずに済んだ」と喜んでおられました。油クーラーの油側汚れが除去され、クーラー性能が復活したためです。

一方「壊れたけど原因不明でメーカーに調査依頼中」というお客様に「油温はどうでした?」とお聞きすると「測っていない」と。これではメーカーに問い合わせても正確な原因究明は困難です。

潤滑のポイント3:温度管理(2)「マランゴニー効果」

温度管理が重要なもう1つの要因があります。それは、油は高温部から低温部へ逃げるという現象です。

ブランデーをブランデーグラスに注ぎ、掌(タナゴコロ)の温もりで香りを楽しむのが好きな方もいらっしゃるでしょう。この時、「ブランデーの涙」にお気づきでしょうか?

ブランデーは掌で温められたグラス底部から、温度の低いグラス上部へ重力に逆らって這い上がっていき、これは「ブランデーの涙」と呼ばれています。油もこのブランデーと同様に、温度が高い方から低い方に流れ、その結果、高温部は油切れになりやすくなります。

以上述べた温度管理に欠かせないのが油クーラー(熱交換器)の性能維持です。油クーラーは、主に空冷と水冷の2タイプがあります。いずれも冷媒側が掃除しやすいのに対して、油側は掃除できない構造が一般的です。ですから使用年数が長くなると、油汚れにより伝熱効率が低下し、「油温が下がらない」という問題が発生しがちです。
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